民教協スペシャル「失くした二つのリンゴ ・ 娘が語る長谷川テル」
私たちAsiaVox中国(北京)がコーディネイトした作品を紹介します。
番組紹介
日中戦争前夜、自らの意思で中国に渡り、中国戦線の日本兵に向けて、ラジオ放送で戦争を止めるように訴えかけた一人の女性がいます。国際エスペランティスト、長谷川テル(1912~1947)です。
テルの行動は、当時の新聞で「売国奴」と名指しで報道されました。
民族のしがらみを越えて、自分の信念で、祖国に対峙した長谷川テル。
二つの国の間で苦悩しながら、故郷を思いながら極寒の中国東北部で34歳の若さで亡くなりました。
長谷川テルについては、日中国交回復を記念して1980年に、杉村春子の語り、栗原小巻主演の、初の日中合作ドラマ「望郷の星~テルの青春」として放送されました。今回は四半世紀ぶりに初めてのドキュメンタリー作品として制作放送するものです。
番組では、その足跡をテルの遺児である娘、暁子が辿ります。
暁子は0歳のときに両親と死に別れ、中国で孤児として育ちました。日中国交回復後、初めて日本を訪れ、1993年に国籍を取得しました。
激動の時代を生きた母と娘、その二人の女性の生き方から、人生の切なさ、そして平和の尊さを、静かに語りかけるヒューマンドキュメンタリーです。
8月に2週間の中国取材を行いました。上海、南京、武漢、重慶、北京、そして中国東北部のハルビン、ジャムス(黒龍江省)の七都市に及び、取材の様子は、現地の新聞、テレビなどにも取り上げられました。
戦争によって引き裂かれた絆をつなぐメッセージを広島から全国発信します。
長谷川テル
(1912~1947)
中国では教科書にも登場する著名な「国際主義戦士」「革命烈士」で、革命記念館に紹介コーナーが設けられたり、絵葉書になったり京劇の主人公として描かれたり、中国・中央電視台が戦後60年特集で製作した番組のテーマに取り上げられるなど、歴史的人物として扱われています。
一方日本では、時代に抗ったことで「売国奴」「非国民」のレッテルを貼られます。今もほとんど知られていない、埋もれた存在なのです。
日中戦争前夜、自らの意思で中国に渡り平和活動に身を投じた国際エスペランティストで、日本の「中国侵略」をペンで鋭く世界に報道するとともに、戦争を止めるよう中国戦線の日本兵に向けてラジオ放送で訴えかけました。
当時の都新聞に「嬌声の売国奴」と名指しで報道されましたが、「お望みとあれば、どうぞ私を売国奴と呼んでくださっても結構です。私はこれっぽっちもおそれはしません。むしろ、私は他民族の国土を侵略するばかりか、なんの罪もない無力な難民の上に、この世の地獄を現出させて平然としている人々と同じ民族の一人であることを恥とします。ほんとうの愛国主義は、人類の進化とけっして対立するものではありません」と毅然と語りかけました。
その強さ、烈しさの反面、素顔は繊細で、文学や音楽、小さな日常の営み、そして祖国日本を愛する心豊かな女性でした。志半ば34歳で亡くなります。60年前の1月10日、二人の幼い子供と夫、そして日本の家族と祖国の将来に思いを残してのことでした。
劉仁
(1909~1947)
テルの夫。
当時の満州国(遼寧省)出身で、東京高等師範学校に留学中にエスペラントを通してテルと出会います。
長谷川暁子
(中国名・劉暁嵐、62歳)
テル・劉仁夫妻の長女。0歳のとき両親が病死。中国・ハルピンの孤児院などを転々として育ち、文化大革命など中国の現代史を生き抜きます。1979年初来日。現在帰化し、大阪府在住。同志社大学講師を務めます。
昭和22年、母親のテルが命を落としたのは妊娠中絶手術の失敗が原因でした。3か月後、病弱だった夫・劉仁も後を追うように他界します。わずか1歳で両親を失った暁子さんは、革命烈士の子供として中国共産党の施設にあずけられ、少女時代を送ります。その後も官費で学生生活を過ごしますが、1969年に始まった文化大革命の嵐が暁子さんを襲います。
当時の苦難について、暁子さんはこれまで多くを語ろうとはしませんでした。それどころか、母親・テルについて語ることにも抵抗があったようです。「母は母、自分は自分」という思いが強かったのです。そんな暁子さんが、今やっと心を開くようになってきています。中国での暮らし、そして母への思いを素直に吐露するようになってきたのです。
暁子さんのとつとつとした言葉は、私たちの胸に重く響きます。
アジアヴォックスの紹介
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